差配の方の格子戸もまだ開かなかった。お庄はしばらくそこを彷徨《ぶらぶら》していた。
昼少し前に、お庄が台所で飯の支度をしているところへ、磯野はぶらりとやって来た。そして奥で叔父や母親に調子を合わせて、何やら話し込んでいた。お庄はその顔を一目見たきりで口を利くことも出来なかった。
飯の支度の出来た時分に、磯野は母親の止めるのも聞かずに、そわそわした風で帰って行った。
お庄は目に涙をにじませながら、台所の方から出て来ると、「昨夜《ゆうべ》のことどうしたんです。」と出口で外套《がいとう》を着かけている磯野に声かけた。
「どうもしやしないよ。」と、磯野はにやにや笑いながら、「後で遊びにおいで」と言って出て行った。
六十五
田舎にいる芳村のもとへ、友達がそっと電報を打ってやった時分には、磯野は公然《おおぴら》にお増の部屋に入り込んでいた。
糺や芳村の友達仲間に後援《あとおし》をされて、ある晩お庄が磯野を連れ出しに行った時、お増はちょうど餅を切っていた。磯野も褞袍《どてら》などを着込んで、火鉢の前に構え込んでいた。その前にも、お庄は天神の年の市に二人一緒に歩いているところを
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