の心も多少落ち着いていた。
「私のようなものでも、どうぞ姉と思って交際《つきあ》って頂戴ね。磯野さんにも、芳村の弟のつもりで、これから力になって戴《いただ》くことに私お願いしたんですからね。」と、お増は猪口《ちょく》を差しながらお庄に話しかけた。なにかにつけて源之助の仮声《こわいろ》ぶりを演《や》るその調子が、お庄の耳には舐《な》めつかれるようであった。
 帰りに磯野もお庄もお増の宿へ寄ることになった。六畳ばかりのその部屋はきちんと片着いていた。先刻《さっき》出て行ったままに、鏡立てなどが更紗《さらさ》の片《きれ》を被《か》けた芳村の小机の側に置かれて、女の脱棄てが、外から帰るとすぐ暖まれるように余熱《ほとぼり》のする土の安火《あんか》にかけてあった。
「私冷え性なものですから、安火がなくちゃどうしても寝つかれないの。」と、お増は中へ手を挿《さ》し入れて、火を掘《ほじ》くった。そしてそこから小さい火種を持ち出して、火鉢に火を興《おこ》しはじめた。長いあいだ慣らされて来たこの夫婦の切り詰めた世帯が、炭の注《つ》ぎ方にも思いやられた。田舎からの細い仕送りで、やっと図書館通いをしている芳村が
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