って見て見ぬ振りをしていたが、そうとばかりに澄ましていられなくなった。
「そういうわけじゃないのよお庄ちゃん。」とお増は小さい可愛い手頭《てさき》に摘んだ巻莨などを喫《ふか》して、「誘おうと思ったけれど、もう時間も遅かったしきっとお庄ちゃんが先へ来ているだろうと思ったのよ。決して出し抜いたわけじゃないんですから、どうぞ悪しからずね。」
 御簾《みす》がおりてからも、二人はしばらくそんなことを言い合った。
「まあいいじゃないか。己《おれ》が悪かったんだから。」と、磯野は制した。
 お庄は世間摺れのした年上の女に、そう突っかかって行くことも出来なかった。二人だけのおり、後で磯野に話をすれば筋道の解ることだとも思った。
 三人はもう落ち着いて高座へ耳を澄ましてもいられなかった。お庄は始終磯野に話しかけるお増の様子に気を配ることを怠らなかった。お庄を傍につけておいて、時々|謎《なぞ》のようなことを言い合っている二人の素振りには、ずうずうしいようなところがあった。
 中入り前に寄席を出ると、その足で蕎麦屋《そばや》へ入って、それから寒い通りを縺《もつ》れ合って歩いていた。蕎麦屋を出る時には、お庄
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