んだあとでもまた自分の手を注意深く消毒するのが気にくわなかったが、それすら今はあまり相手をしてくれなくなった。
 障子張りが一ト片着き片着いてから、衆《みんな》は一緒に晩飯を食べた。お増は芳村のいない宿の部屋へ帰って、昨日から持越しの冷たい飯を独りで食べる気がしなかった。
「話を聞いてみれば、あの人だって可哀そうですよ、寄りつくところがないんですからね。」と、お庄は後でお増のことを噂した。
「一生懸命芳村さんに噛《かじ》りついていたって、その芳村さんがどうなるか知れやしない。」
 お庄はそう言いながら、奥の箪笥のうえに置かれた鏡の前に立って、髪を直していた。磯野とお増と三人で、晩に寄席に行く相談が、飯の時取り決められてあった。磯野はお増に寄席を強請《ねだ》られると、そのつもりで、飯が済んでからお増と一緒に、一旦帰って行った。
 お庄は顔も化粧《つく》り、着物も着替えて待っていたが、時計が七時を打っても八時を打っても誰も来なかった。お庄はじっとして落ち着いていられなかった。
 軒の外へ出て見ると、雨がしぶりしぶりと降り出している。お庄は出たり入ったりしていたが、待ちきれなくなって、傘《か
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