た。
お増はお庄と一緒に、茶の間で障子を張りながら、自分の身の上のたよりないことを話した。お増は自分の親を知らなかった。浜町のある遊び人の家で育ったことだけは解っているが、そのほかのことは何にも知れていなかった。ようやく小学校を出た時分から男とと関係して、田舎の医師《いしゃ》のところへ縁づく前には、ある薪炭商《しんたんしょう》の隠居の世話になっていた。
「真実《ほんとう》に私ほど苦労したものはありませんよ。」と、お増は粗雑《ぞんざい》な障子の張り方をしながら、自分のことばかり語った。
「これで芳村がまた駄目となれア、私だって考えまさね。」
お庄も母親も人のこととばかり聞き流してもいられなかった。
奥では磯野が叔父と碁を打っていた。磯野がまた東京へ出て来たのは十一月の初旬で、お庄は叔父や母親に隠れて、時々叔父の家で逢っていた。問屋の方をすっかり封ぜられた磯野は、前のように外を遊び行《あ》るいていてばかりもいられなかった。碁敵《ごがたき》や話し相手に渇《かつ》えている叔父も、磯野の寄りついて来るのを、結句|悦《よろこ》んでいた。医師《いしゃ》の糾や繁三が来ると、すぐに石を消毒して、済
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