て、ずぶ働かないでいるわけにも行かないでね。」
「そんなことくらい何でもないじゃないか。気に苦労がないだけでもいい。またあのくらいよく出来た養子もないものせえ。働くことも働くし姑も大事にする。」
 母親もお庄も、我《が》を張って断わることも出来ないと思った。
 お庄は日が暮れると、天神下にある磯野の叔父の家へ、時々訪ねて行った。以前はかなりの船持ちであったという磯野の叔父はもと妾であった女と一緒に、そのころそこに逼塞《ひっそく》していた。下谷で営《や》っていた待合も潰《つぶ》れて、人手に渡ってから、することもなく暮していた。
 お庄は夏の末に、また出て行くと言った磯野の言《ことば》を想い出しては、この叔父から、田舎の消息を聞き出そうとした。

     六十二

 お庄と母親とが障子張りをやっていると、そこへお増も来て手伝った。
 免状を取ると一緒になるはずの芳村が、学資の継続問題で、秋の末に郷里へ帰ってから、お増は始終ここへ入り浸っていた。四つも五つも年上のこの女に附き絡《まと》われるのをうるさがって、二階にいた中江という書生も、そのころはどこへか引っ越して行方《ゆくえ》が知れなかっ
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