「阿母《おっか》さんも行くなら行っておいでなさいよ。たまにゃ外へも出て見るといいのよ。」お庄は家へ帰って行くと、今やっと行水から上ったばかりの母親を促した。母親はにやにやした顔で二人を見迎えたが、女中と一緒に買物がてらお庄から金を渡されて出て行くまでには、大分暇がかかった。
中江という医学生のところへよく遊びに来る、お増という女が二階から降りて来ると、二人のなかへ割り込んで、辻占入《つじうらい》りの細かい塩煎餅《しおせんべい》を摘《つま》みながら、間借りをしている自分の宿やここへ出入りする男の品評などを始めた。この女はもう二十六、七であった。縁づいていた田舎医師の家で不都合なことがあって、子供のあるなかを暇を出されてから、東京へ来て長い間まごついていたことを、お庄も中江などから聞いて知っていた。「お前のような女には手切れの金より着物の方が身について安全だろう。」と言って、その良人から拵えてもらった支度が亡《な》くなった時分には、もういろいろの男を亭主に持って来たことを、女の口からもたびたび聞かされた。女はしみじみした調子で亭主運の悪いことをよく零《こぼ》した。行き詰って、田舎の医師の
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