家へまた詫《わ》を入れに行ったとき、姑《しゅうとめ》が頑張《がんば》っていて、近所に取っていた宿から幾度逢いに行っても逢うことが出来なかった。女は夜更けてから梯子をさして、そっと二階の主《あるじ》の部屋の戸を敲《たた》いたが、やはり入ることが出来ずに、外から悪体を吐《つ》いて帰って来た。
「私あんなくやしかったことはありゃしませんよ。」と、女は目に涙をにじませて、自分と自分の興味に耽《ふけ》りながら話していた。
「まあ聞いて下さいよお庄ちゃん――。」と、女は今度の試験を、長く一緒にいる男がまた取り外してしまったことを零しはじめた。
「あんなに私が一生懸命になって、図書館に通わしてやっても、駄目なものはやはり駄目なんでしょうかね。これからまた一年、毎日毎日お弁当を拵えてやらなけアならないのかと思うと、私うんざりしちまいますよ。」お増は磯野に莨を吸いつけてやりながら、哀れな声で言った。
「今度私磯野さんに芝居を奢《おご》って頂きましょう。ねえお庄ちゃんいいでしょう。」お増は帰りがけに、甘い調子で磯野に強請《ねだ》った。
「あの人は芝居がどのくらい好きだか――。」と、お庄は後で磯野に話した。
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