は金六町の家へ帰って来ると、昨夜《ゆうべ》帰った叔父が二階にまだ寝ていた。三和土《たたき》に脱いである見なれぬ女の下駄がお庄の目を惹《ひ》いた。
「……芸者だか何だか……。」と、母親は笑っていた。
五十六
お庄らが母子《おやこ》の仕事として、ひっそりした下宿を出そうと思いついたのは、この事務所を畳んでから、一家が丸山の隣の小さい借家へ逼塞《ひっそく》してからであった。それまでに会社の方はパタパタになっていた。欠損を補うべき金や、下宿の資本《もと》を拵えると言って、叔父は暮に田舎へ逃げ出したきり、いつまでも帰って来なかった。
河岸《かし》の家で、叔父が一、二度二階へ連れ込んで来た女が、丸山の田舎の嫂《あによめ》の姪《めい》であることが、お庄母子にじきに解った。その女はお照と言って年はお庄からやっと一つ上の十九であったが、もう処女ではなかった。東京へ出るまでには思い断《き》ったこともして来た。
丸山の隣へ引っ越して行ってから、この女とお庄はじきに近しい間《なか》になった。女は痩せぎすな※[#「※」は「兀+王」、第3水準1−47−62]弱《ひよわ》いような体つきで、始終黙
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