た。
「昨夜《ゆうべ》の人に返す金の工面にでも行ったろうえ。」
二人は、また叔父の噂をしはじめた。叔父が遊んでいる女に費《つか》う金だけでも、このごろの収入では追っ着きそうなこともなかった。応募者が、予期した十分の一もなかったことが、女連にもだんだん呑《の》み込めて来た。
事務員が、寝飽きたような腫《は》れぼッたい顔をして、暗い三畳の開き戸を開けて出て来た。そして目眩《まぶ》しそうな目を擦《こす》った。綻《ほころ》びた袖口からは綿が喰《は》み出し、シャツの襟も垢《あか》や脂《あぶら》で黒く染まっていた。お庄はくすくす笑い出した。この男がここへ来てから、もう三月《みつき》にもなった。
「もう何時です。」事務員は目を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》って時計を眺めた。
それから水口の方へ出て顔を洗うと、間もなく膳の側へ寄って来た。紫色に爛《ただ》れたような面皰《にきび》が汚らしかった。
飯がすむと、お庄は二階へあがって叔父の寝所《ねどこ》を片着けにかかった。冬の薄日が部屋中に行《ゆ》き遍《わた》っていた。お庄は蒲団や寝衣《ねまき》を持ち出して手擦《てす》りにかけなが
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