意書や規則書のような刷り物の原稿を書いたり、基金や会員募集の方法を講じたりした。基金はまだ刷り物に書き入れてある額に達していなかった。会社のする仕事は、無尽のような性質を帯びた手軽な一種の相互保険であった。
二、三人の募集員が、汚い折り鞄を抱えて、時々格子戸を出入《ではい》りした。昼になると、お庄はよく河岸《かし》の鰻屋《うなぎや》へ、丼を誂《あつら》えにやられた。
ここに寝泊りしている、若い事務員がただ独り、新しい帳簿のならんだデスクの前に坐って、退屈そうに、外を眺めたり、新聞を見たりしていた。そして時々想い出したように、会員名簿のようなものを繰ったり、照会《といあわせ》の端書に返辞を書いたり、会費の集まり高を算盤《そろばん》で弾《はじ》いたりしていた。
事務員が、日当りの悪い三畳の室《ま》に、薄い蒲団に包《くる》まって、まだ寝ているうちに、叔父は朝飯の箸も取らずに、蒼い顔をして出かけて行った。
長いあいだ少し積んで来た貯金を提《さ》げて仲間に加わって来た中学の教師が、二階で昨夜《ゆうべ》遅くまで、叔父と何やら争論めいた口を利き合っていたことが、お庄|母子《おやこ》も下で聞い
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