りしたこともあったにな。十年と一緒にいなかった。」
お庄は袋のなかから、こまこました叔母の細工物を取り出して見ていた。縮緬《ちりめん》の小片《こぎれ》で叔母が好奇《ものずき》に拵えた、蕃椒《とうがらし》ほどの大きさの比翼の枕などがあった。それを見ても叔母の手頭《てさき》の器用なことが解った。体の頑固な割りに、こうした女らしい優しい心をもっていたことが、荒く育ったお庄にもうらやましかった。叔母の側にくっついていて、もう少し何かの手業《てわざ》を教わっておくのだったとも考えた。
「叔母さんのすることは、少し厭味よ。」お庄は捻《こ》ねくっていた枕をまた袋の底へ押し込んだ。よく四畳半で端唄《はうた》を謳《うた》っていた叔母の艶《つや》っぽいような声が想い出された。
「阿母《おっか》さんもそんなものを持って来て。」
お庄も目録を取り上げて畳の上に拡げた。
「阿母さんだって、木曽へ行った時分はねえ。」と、母親は木曽《きそ》の大百姓の家へ馬に乗って嫁に行ったことを想い出していた。
「あの家に辛抱しておりさえすれば、今になってまごつくようなことはなかったに。」
「どうして辛抱しなかったの。」
「ど
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