、お庄も飽き飽きしていた。口で言うほどでもない姑は、外へ出れば出たで腥《なまぐさ》いものにも箸を着けていた。「気晴しに、御酒を一つ。」と言って食物屋《たべものや》で飯を食うとき銚子《ちょうし》を誂《あつら》えてお庄にも注いでくれた。
「自分が出不精のくせに、人が出ると機嫌がわるいのだよ。真実《ほんとう》に妙な人。」お庄は終《しま》いに笑った。
湯が沸く時分に姑は着替えをすましてまたそこへ坐った。母親も側へ来て、お愛想をした。そうしてからまた、明後日《あさって》のお寺詣《てらまい》りに着て行く、自分の襦袢の襟をつけにかかった。
五十二
姑が帰ってから二、三日の間、お庄|母子《おやこ》は家の片着けにかかっていた。箪笥の抽斗《ひきだし》が残らず抽《ぬ》き出され、錠の卸《おろ》された用心籠や風を入れたことのないような行李が、押入れの奥から引っ張り出された。そんな物のなかから、蝕《むしば》んだ古い錦絵《にしきえ》が出たり、妙な読本《よみほん》が現われたりした。母親は叔母が嫁入り当時の結納の目録のような汚点《しみ》だらけの紙などを拡げて眺めていた。
「お此さんも、こんなにして嫁入
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