日毎日暇を潰《つぶ》した。出して見てはしまったり、やって見てはまた惜しくなったりした。
「欲しいと言うものは何でも持って行かした方がいい。姉さまやお庄には、どうせまた拵えるで……。」と、叔父は蔭で母親をたしなめた。
姑はお庄に案内してもらって、久しぶりで浅草や増上寺を見てあるいた。芝居や寄席へも入った。姑はそのたんびに、何かしら死んだ娘の持ちものを一つや二つは体に着けて出ることにしていたが、お庄も叔母の帯などを締めて、いつもめかしこんで出て行った。四畳半にはまだ白い位牌《いはい》が飾ってあった。姑は外から帰って来ると、その側へ寄って、線香を立てたり鈴を鳴らしたりした。
「新仏《あらぼとけ》さまにまた線香が絶えておりましたに。」と言って、姑は余所行《よそゆ》きのままで、茶の室《ま》へ来て坐った。
「へ、そうでござんしたかね。」と、母親は此間《こないだ》中の疲れが出て、肩や腰が痛いと言って、座敷の隅の方に蒲団を延べて按摩《あんま》に療治をさせながら、いい心持に寝入っていた。
叔父は明後日《あさって》の初七日《しょなぬか》のことで、宵から丸山へ相談に行っていた。
「ああ、お蔭さまで、私
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