ま》で、今やっと裏口から届けて来た、着物の包みをほどきながら、母親と額を鳩《あつ》めて話し合った。包みのなかには、正雄に着せる紋附や袴も入っていた。二人は気忙しそうに、仕着《しつ》け糸を※[#「てへん+劣」、第3水準1−84−77]《むし》りはじめた。母親はその中で、紋を一つ一つ透《すか》しては見ていた。
長く田舎に蟄居《ひっこ》んでいる父親に物を亡《な》くされた愚痴が、また言い出された。
五十一
「……後をお貰いなさればと言っても、私はまたちょくちょく寄せておもらい申しますわね。」と、姑《しゅうとめ》が皆に暇乞《いとまご》いして帰ってしまってからは、叔父の家も急に寂しくなった。弟夫婦は、葬式《とむらい》がすむと、じきに立って行った。
それまでに、姑は片見分けに自分の持って帰るようなものを、母親と一緒に、すっかり箪笥のなかから択《え》り分けた。中には叔母が田舎にいた時分から離さなかった頭髪《あたま》のものなどもあった。姑は自分がそれを拵えてやたころのことを言い出して、三十やそこいらで死んでしまった娘の不幸をまた零《こぼ》しはじめた。
そんな物を択り分けるに、二人は毎
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