を着た姑は、その側に立って泣いていた。母親も涙を拭きながら、口のなかにお題目を唱えていた。
田舎から来た人たちも、皆な着替えをすまして、そこらに彷徨《うろつ》いていた。
お庄は今朝から、今日の着物のことで気が浮わついていた。昨日の昼過ぎにやっと注文した紋附が、一時出棺の間にあいそうにもなかった。
「やっぱりお此さんのをお前のに直した方が早手廻しだったかな。」今朝の九時ごろまでかかって、やっと家で縫えるようなものを縫いあげた母親は、そんな物を積み重ねた、茶の室《ま》の隅の方で、お庄とひそひそ話し合っていた。田舎から出て来た叔母の弟嫁が良人と一緒に入って来た。そうして鞄からそこに出しておいた着物の包みをほどきながら、良人の羽織や袴《はかま》を取り別《わ》けて、着替えをさせに取りかかった。顔の綺麗なその良人は、ごりごりした帯や袴の紐に金鎖を絡《から》ませながら、ぬッとした顔をして出て行った。嫁はそれから隅の方で、背後向《うしろむ》きになって自分の支度に取りかかろうとした。
「どうも済んません、遅くなって……。」お冬という叔母やお庄の結いつけの髪結が、ごたくさのなかへ、おずおず入って来た。
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