捲《かいま》きや蒲団を持ち出して来てやった。
 静かになった座敷の方からは碁石の音などが響いて来た。

     五十

「さあ皆さん打《ぶ》っ着けてしまいますよ。」葬儀屋の若いものと世話役の安公とが、大声に触れ立てると、衆《みんな》はぞろぞろと棺の側へ寄って行った。
 細長い棺の中には、布《きれ》の茶袋が一杯詰められてあった。冠《かぶ》り物《もの》や、草鞋《わらじ》のような物がその端の方から見えた。生前にいろいろの着物を縫って着せるのが楽しみであった人形を入れてやろうかやるまいかということについて、女の連中がまた捫着《もんちゃく》していた。
「入れないそうです。」と、誰やらが大分経ってから声かけた。
衆《みんな》が笑い出した。
「残しておいても何だか気味がわるいようですから入れて下さい。」とお庄は言ったが、母親は惜しがった。
「私《わし》が娘《あれ》の片身に田舎へ連れて帰らしておもらい申しますわね。」と、姑も言い出した。安公がでこぼこの棺のなかを均《なら》しながら、ぐいぐい圧《お》しつけると、「おい来たよう。」と蓋《ふた》がやがてぴたりと卸《おろ》された。白襟《しろえり》に淡色の紋附
前へ 次へ
全273ページ中156ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング