が強いんだよ。」
「なにかと言ったって、お此さんは幸福《しあわせ》せえ。田舎じゃどうして、あんな手当ては出来るもんじゃない。」母親も言った。
「どういうものでしょうかね、明日《あした》の葬式《とむらい》に小崎さんはおいでなさるでしょうね。」
丸山の主《あるじ》が、何やら長い帳面と筆とを持って、白足袋を気にしながら、散らかった台所口へ来てしゃがんだ。
「そうでござんすね。」と、母親は椎茸《しいたけ》を丼で湯に浸《つ》けていながら、思案ぶかい目色《めいろ》をした。
「後《あと》を貰うものとすれば、やっぱりお寺まで行くべきものでしょうかね、弟もまだ四十にゃ二、三年|間《ま》のある体だもんですからね、これぎり貰わないっていうわけにも行きませんか知らんて。」
「それアそれどころじゃない。」
「それとも、田舎から姑《しゅうとめ》も来ているものですから、お葬式《とむらい》の時だけは遠慮すべきもんでしょうか。」
「あらかじめ再婚を発表するようでもあまり感服しないでね。」丸山はこういって、母親とお庄の顔を見比べた。
「それでお庄ちゃんは香炉持《こうろも》ち、正ちゃんがお位牌《いはい》、それアようござん
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