厭味を言った。
お庄も少し逆上《のぼ》せたようになっていた。そして自分は自分だけの理窟を言った。人中にいるのに、そう姿振《なりふ》りにかまわないわけにも行かないと思った。自分の身じんまくもする代りに、病人の看護も、長い間まだしもよくして来た方だとも思った。
お庄は理も非も判《わか》らないような老婦《としより》の愚痴に終《しま》いに笑い出した。
吊り台で、死骸が担ぎ出されるまでには、大分時間がかかった。そのころにはまだ温《あたた》か味《み》の通っている死人の腹部も、だんだん冷えて来た。家を出るとき、声をかけて来た手伝いの人たちもそれぞれ集まって来た。中には叔父も資本の幾分を卸して、車を五、六十台ばかり持って、挽子《ひきこ》に貸し車をしている安という物馴れた男もいて真先に働いた。
「小崎さん、患者さんの代りに、あなたの紀念の写真を一枚|撮《と》って下さいな。」中ごろから替って来た気のやさしい上方産《かみがたうま》れの看護婦が、病室を取り片着けているお庄の傍へ寄って来て言いかけた。お庄は夜も昼も聞かされた病人の唸り声が、まだ耳についているようであった。
お庄は気忙しいなかで、叔父に断
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