骸《から》などがだらしなく散らばっていた。
「まアいい、大丈夫今に行くで……。」正体なく眠っている叔父は、顎をがくがくさせながら、お庄の顔をじろりと見たきりで、長い体をぐらりと横へ引っくら返った。
 お庄はそこへ俥をおいて、ついでに近所の髪結のところへちょっと声をかけてから家へ帰った。
 死んだという電報が、八時ごろにお庄の髪を結っているところへ舞い込んだ。
「それじゃやっぱりそうだったんだ。」と、母子は幾度も電報を読み返した。
 母親は気忙しそうに起ち上ったが、さしあたって何をするという考えも思い浮ばなかった。お庄は急いで合せ鏡をしながら、紙で頚《えり》などを拭いて、また叔父のところへ駈けつけた。
 その家では、衆《みんな》がぞろぞろ起きて、脹《は》れぼッたいような顔をして茶の室《ま》へ集まった。
 叔父は内儀《かみ》さんの汲《く》んでくれた茶を飲みながら、電報の時間附けなどを見ていたが、するうちにお庄と一緒に家を出た。主《あるじ》夫婦も、着換えをして後から続いた。
 衆《みんな》が病院へ駈けつけた時分には、死骸はもう死亡室の方へ移されてあった。げっそり嵩《かさ》の減ったような叔母の
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