りした。
お庄は人気のない家のなかを、落ち着かぬ風であっちゆきこっち行きしていた。葬式《とむらい》や骨《こつ》あげに着て行く自分の着物のことなどが気にかかった。田舎から来る、叔母の身内の人たちの前も、あまり見すぼらしい身装《みなり》はしたくないと想《おも》った。
母親とお庄は、奥座敷の箪笥の前に立っていながら、そのことについていろいろと相談した。
「なあに間に合うて。今日の午前《ひるまえ》に目を落したって、葬式《とむらい》は明後日《あさって》だもんだで……それも紋を染めていたじゃ間に合いもすまいけれど、婚礼というじゃなし石無地《こくむじ》でも用は十分足りるでね。それでなけれアお此さんの絽《ろ》の方のを直すだけれどな。」
母親は落ち着きはらって、いろいろの見積りを立てていた。
とにかくお庄は、叔父を捜しに出かけることにした。入舟町の方から渡って行く中ノ橋あたりは、まだ朝濛靄《あさもや》が深く、人通りも少かった。その家では、女中と娘の子とが起きているぎりで、遊びに疲れた主人夫婦も叔父も、今ようやく寝たばかりのところであった。叔父のたおれている座敷には、帯や時計や紙入れや飲食いした死
前へ
次へ
全273ページ中148ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング