に入れて家に帰って行った。
叔母はまた家のことをいろいろ頼んだ。
「田舎の阿母《おっか》さんも、疲れが癒《なお》ったらまた少しお出でなすって下さいってね。そしてあの帯が重いようなら、私の不断帯でもおしめなすってね、着物もじみなのがいくらもありますから……。」病人は自分の母のことばかり心配した。
お庄はその顔を眺めて立っていた。
「お庄ちゃんも、行ったり来たりするんだから、私の雪駄《せった》でも出してはいたらどうだね。」病人はくっつけたようにお愛想を言った。「私は癒ればまた買いますわね。」
お庄は隅の方で帯を締め直したり、顔を直したりして、それから出て行った。
田舎の母親が、もう片身分《かたみわ》けの見立てでもするように、座敷でいろいろなものを拡げて見ていた。大抵は叔母がこの三、四年に丹精して拵えたものばかりで、ついこの春に裾廻しを取り替えてから、まだ手を通したことのない、淡色の模様の三枚襲《さんまいがさね》などもあった。お庄は嫁に行くとき、この古い方の紋附を叔母から譲ってもらうことになっていたことを思い出した。
樟脳《しょうのう》の匂いの芬々《ぷんぷん》するなかで、母親を相手
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