日目であった。叔母の体は、手をかければ崩れでもしそうに、顔も手足も黄色く脹《ぶく》ついて来た。時々差し引きのある熱も退《ひ》かなかった。下《しも》の方からは厭な臭気《におい》が立って、爪《つめ》や唇に血の色がなかった。腹膜、心臓、そんなような余病も加わって来た。
「こう何も彼も一時になって来ては、とても手のつけようがありませんな。何なら大学へでも入れて御覧になりますか。」医師は絶望的に言い断《き》った。
その日の暮れ方に、湯島の糺《ただす》の方へ大学の病室の都合を訊いてもらいに駈けつけたお庄は、九時ごろに糺と一緒に戻って来た。大学の方は明きがなかった。糺は方々駈けずりまわった果てに、前に下宿していたことのある友達が助手をしている、駿河台《するがだい》の病院の方へようやく掛け合ってくれた。
「どっちにしたって死ぬ病人だもんだで、病院に望みはない。」叔父はこう言ってすぐ入院の準備に取りかかった。
体の重い病人は、床のなかで着替えをさせられると、母親や叔父や、多勢の手で上り口へ掻き据えられた吊《つ》り台の上にやっと運び込まれた。そんなにまでして病院へ担《かつ》ぎ込まれるのを、病人はあまり
前へ
次へ
全273ページ中133ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング