締めていた。
「お墓はどんなとこだかね……癒《なお》ったらお庄ちゃんに連れてってもらって、お詣《まい》りをしてやりましょうよ。そして小さい石塔を建ってやりましょう。闇《やみ》から闇って言うのは、ほんとうにあのことだわね。」産婦は泣くような声で言っていた。
壺は植木屋の幸さんが、紐《ひも》で首から下げて持って行った。その後へ叔父とお庄の俥が続いた。三人は帰りに蓮《はす》の咲いている池の畔《はた》を彷徨《ぶらつ》きながら、広小路で手軽に昼飯などを食ったのであった。お庄は久しぶりで、こんな晴々《せいせい》したところを見ることが出来た。
二時ごろに、昨夜《ゆうべ》の医師《いしゃ》が来て診て行った。医師は首を傾《かし》げながら、叮寧《ていねい》な診察のしかたをしていたが、別に深い話もしなかった。少し血脚気《ちがっけ》の気味もあるようだし、産褥熱《さんじょくねつ》の出たのも気にくわぬが、これでどうかこうか余病さえ惹《ひ》き起さなければ、大して心配することもなさそうだと言って局部へ手当てを施し、新しい処方などを書きつけて置いて行った。
この医師《いしゃ》から、病人が見放されたのは、それから八
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