》だで。」
叔母はまた死んだ子の年など数えはじめた。
去年の夏よりも一層、叔母は冷たい物を欲しがった。氷や水菓子を、叔父に秘密《ないしょ》でちょくちょくお庄に取りに走らせた。暑い日は、半病人のような体を、風通しのよい台所口へ這《は》い出して来て、脛《はぎ》の脹《むく》んだ重い足を、冷たい板敷きの上へ投げ出さずにはいなかった。下《しも》の方も始終苦しそうであった。婦人科の若い医者が時々廻って来ては、その方の手当てをしていた。腹に子があるので、思いきった療治もできなかった。
痛痒《いたがゆ》くなって来ると、叔母は苦しがって泣いていた。それが堪えられなくなると、近所から呼んで来た按摩《あんま》を蚊帳《かや》のなかへ呼び込んでは、小豆《あずき》の入った袋で、患部を敲《たた》かせた。
お庄が朝目をさますと、薄野呂《うすのろ》のようなその按摩は、じっと坐ったきりまだ機械的に疲れた手を動かしていた。明け方から眠ったらしい叔母の蒼白い顔に、蚊帳の影が涼しく戦《そよ》いでいた。
四十一
やがて胎児の死んでいることが、出産前から医師《いしゃ》や産婆に解って来た。しばらく床に就きッき
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