っていらっして下さいませ。何しろ大きゅうございますからね。おおこの動くこと。」と、九州訛《きゅうしゅうなま》りのあるその産婆は、これが手、これが肩などと言って、一々妊婦の手に触らせていた。
「六月《むつき》やそこいらで、そう育っているのでは、お産がさぞ重いでしょうね。」叔母はまた自分の年取っていることを気にした。
「そんなことがあるもんですか。少しぐらい体が弱っていたって、私が大丈夫うまく産ませておあげ申しますから……それにあなたは初産《ういざん》じゃないのですからね。年取ってからの初産は少し辛《つろ》うございますよ。」
 産婆は象牙《ぞうげ》に赭《あか》く脂《あぶら》の染み込んだ聴診器を鞄にしまい込むと、いろいろのお産の場合などを話して聴かせた。畸形《かたわ》や双児《ふたご》を無事に産ませた話や、自分で子宮出血を止めたという手柄話などが出た。
 叔父は苦い顔をして、座敷の縁の方に新聞を見ていた。叔母が妊娠と解ってから、夫婦はまだ見ない子のことを、いろいろに考えていた。が、叔父は時々自分の年とその子の年とを繰って見たりなどした。
「もう晩《おそ》い、私が五十七になってやっと二十《はたち
前へ 次へ
全273ページ中126ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング