にも感づけて来た。叔母はまた日本橋の婦人科の医師に診《み》てもらった。
「こんなものをむやみと洗っちゃたまらない。確かに妊娠です。もう四ヵ月になっています。」その医師は断言した。
去年の夏のような水気が、また叔母の手足に張って来た。陽気が暖かくなるにつれて、体がだんだん重くなって来た。産をするまでは、荒い療治もしかねる局部の爛《ただ》れが、拡がって来るばかりであった。叔母は聞いていても切なそうな呻吟声《うなりごえ》を挙げて、夜も寝られない大きな体を床の上に転がっていた。
四十
箪笥《たんす》の抽斗《ひきだし》のなかに、赤子に着せる白や赤や黄のような着物が、一枚一枚数が殖えて来る時分に、叔母の体もだんだん重くなって来た。叔母はほとんど十年目で三度目の出産に逢うのであった。始末のよい叔母は、田舎住居《いなかずまい》のそのころから持ち越して来た、茜木綿《あかねもめん》や麻の葉の型のついた着物をまた古葛籠《ふるつづら》の底から引っ張り出して来て眺めた。産れて百日生きていた子供のために拵えたという、節の多い田舎織りの黒斜子《くろななこ》の紋附などもあった。こんな子供の顔は、今想
前へ
次へ
全273ページ中124ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング