《いまいま》しかった。
株屋仲間といったような連中が、時々遊びに来た。一緒に会社を退いた人たちも、その当座寄ると触《さわ》ると儲け口を嗅《か》ぎつけようとして、花を引いていても目の色が変っていたが、そんな人たちも長くこの家を賑わしてはいなかった。会社で引き立ててやったような人たちや、一緒に遊んであるいた仲間も姿を見せなくなった。
「あれほど繁々《しげしげ》来た小原さんも、近ごろはかんぎらともしないね。」と、叔母は、お庄や母親を奥へ呼んで、内輪だけで花札を調べながら、時々そのころの賑やかだったことを想い出していた。そうして花を引いても気の興《はず》むということがなかった。やがて母親の巾着から捲き揚げた小銭をそこへ投《ほう》り出して、叔母は張りが抜けたように、札を引き散らかした。
始終眠っているような母親は、自分の番が来たのも知らずにいては、お庄に笑われた。
「阿母さんは誰にお辞儀しているんでしょう。」と、お庄は下から覗き込んでは、げらげら笑い出した。
母親は、そうしていながら、いつまでも札を手から棄てなかった。
「もう済んだのよ。堪忍してあげますよ。」
「姉さまも花はどのくらい好き
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