の衣兜《かくし》から莨《たばこ》を出して吸いながら、いつまでもそこを動かなかった。
お庄はまた俥《くるま》で、夜遅く叔父を迎いに出かけた。叔父の居所はじきに解った。そこは烏森のある小さい待合で、叔父はその奥まった小室《こま》に閉じ籠って女ぬきで、酒を飲みながら花に耽《ふけ》っていた。一座はお庄の知らない顔ばかりであった。顎鬚《あごひげ》の延びた叔父の顔は、蒼白い電燈の光に窶《やつ》れて見えた。
三十九
叔母の健康が、また綯《よ》りが戻ったように悪い方へ引き戻されて来た。暮から春へかけての叔父の一身の動揺が、一家の人々にも差し響きを起さずにはいなかった。
責めを引いて会社を罷《や》めてから、叔父は閉じ籠って毎日碁ばかり打っていた。叔父のかなりに使えることを知っている人たちは、他へ周旋しようと言って勧めてくれたが、叔父は当分遊ぶつもりだと言って応じなかった。
「何を計画《もくろ》んでいるだか知らないが、月給はちっと下っても、やっぱり出た方がいいかと思うがね。」と、母親は弟嫁と一緒になって、叔父の心を動かそうとしたが、叔父は姉や妻にも、へこたれたような顔を見せるのが、忌々
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