いて惘《あき》れていた。
「それじゃいけませんでしたわね。」と、お浜は幾度もいいわけをしていた。
日光の方でさんざんの失敗を演じてから、叔父は借りの溜っている洲崎の方へは寄り着きもしなかった。女にも厭気がさしていたので、河岸《かし》をかえてちょくちょく烏森《からすもり》の方へ足を運びはじめていた。
「お立替えの分なぞはどうでもよござんすから、ちっと入らして下さいよ。このごろまたいい花魁《おいらん》が出ましたから。」と女は如才なく店の閑《ひま》なことを零《こぼ》した。
叔父は自分の病気のことや、暮で会社の忙しいことなどを大げさに言い立てていた。お浜はお庄にも、いろいろの話をしかけて、今度遊びに来るなら、大八幡《おおやはた》を案内して見せるなどと、愛想を言いながら出て行った。叔父は奥へ引っ込んで、叔母に紙入れを出さすと、余所行《よそゆ》きの羽織を引っかけて、ぶらりと女をつれ出した。
暮の決算報告などに忙しい時期であったが、叔父は会社の方もあまり顔出ししなかった。出にくい事情のあるらしいことだけは叔母にも解っていたが、それを訊《き》こうとしても、無口な叔父はにやにや笑っていて、何事をも
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