》の冷たいのを盆ごと茶箪笥から取り出して来て、また茶をいれかえなどした。もうお終いものの枝豆なども持って来た。
叔父はその晩も帰って来なかった。お庄は汚れた茶道具や、食べ残しの芋を流しへ出しておいて、それから寝しなに、戸棚のなかから醋《す》を茶碗に汲んで、暗いところで顔を顰《しか》めながら飲んだ。
刳盆《くりぼん》や糸捲きのような土産物《みやげもの》を、こてこて持ち込んで、湯治から帰って来た叔母は、行った時から見ると、血色が多少よくなっていた。体の肉にも締りが出来て帰った当座は食も進み夜も心持よく眠れた。
叔父がまた旅へ出ることになった。線路《レール》の枕木を切り出す山林《やま》を見に、栗山《くりやま》の方へ、仲間と一緒に出向いて行った。大分|費《つか》い込みの出来た叔父は一層|儲《もう》け口を見脱《みのが》すまいとして燥《あせ》っていた。
「これが当れば、お前にだって水仕はさしちゃおかん。」と、叔父はお庄にも悦ばせた。
叔父は行ったきり、いつまでも今市《いまいち》の方に引っかかっていた。一行はそこから馬に乗って、栗山の方へ深く入って行かなければならなかった。日光で遊んでいるよ
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