をしては入れ揚げていることが、この男の話でも解った。叔父の持ち株で、近ごろ小原の手で、他へ譲り渡された口の幾個《いくつ》もあることも、その口から洩れた。そのなかで女の身に着くものも少くなかった。お庄は話を聞いただけでも惜しいと思った。ここへ来てからお庄はまだこれと言って、纏《まと》まって叔父に拵えてもらったようなものもなかった。
「お此《この》さんもあんまり家を約《つ》めるもんだで、かえって大きい金が外へ出るらね。」と母親は後で弟嫁のことを非《くさ》しはじめた。母親はお庄が叔母から譲り受けた小袖の薄らいだようなところに、丹精して色紙《しきし》を当てながら、ちょくちょく着の羽織に縫い直す見積りをしていた。お庄はその柄を、田舎くさいと思って眺めていた。
「お前たちのお父さんが、親譲りの身上を飲み潰したことを考えれア、叔父さんのは自分で取って使うのだで、まアまアいいとしておかにゃならん。」母親はこうも言った。
 また母親の長たらしい愚痴が始まった。二人は色紙ものを弄《いじ》ながらいつまでも目が冴《さ》えていた。腹がすいて口が水っぽくなって来ると、お庄は昼間しまっておいた、蒸した新芋《しんいも
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