からなかったので、叔父はその一つに病気のある妻を入れておいて帰ったのであったが、叔母はそこが寂しいと言って、端書で零《こぼ》して来た。そのたんびに家のことを気にかけてあった。戸締りや火の元の用心、毎日の小遣いのことなどがきっと書いてあった。
「こんなくらいなら、湯治に行ったって効験《ききめ》がありゃしない。」と言って、叔父は笑っていたが、するうちに叔母は二十日《はつか》もいないで帰って来た。
叔父は留守の間もよく家を明けた。時とすると五、六日も家へ寄り着かないことがあった。洲崎の女を落籍《ひか》すとか、落籍して囲ってあるとかいう風評《うわさ》が、お庄らの耳へも伝わった。どっちにしても叔父が女に夢中になっていることだけは確かであった。母親がそっと小原に様子を訊いてみると、小賢《こざか》しい小原はえへら[#「えへら」に傍点]笑いばかりしていて容易に話さなかった。
「どんな女でござんすかね。」母親は女のことをしきりに聞きたがった。
「なに、女はそれほどよかありませんよ。けどなかなか如才のない女です。まア手取りでしょう。小崎さんも大分お使いになったようです。」
叔母に隠して、叔父が無理算段
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