気も何だか知れやしないて風評《うわさ》をする人もあるそうで……。」と、母親は帰った晩に弟夫婦やお庄の前で話した。
「そんな莫迦《ばか》なことがあるもんで。」と、叔父は笑った。
「そうすれば、院長の祖母さんところへ入り浸っている義兄《あに》さんなぞも危いわけじゃないか。」
「それだで私も気味が悪くて、帰っているうちに一度もあの人と行き逢わずしまったに。」と母親は親のようなその婆さんのところへ浸《つか》っている良人のことを悪く言い立てた。
お庄は父親が、いつのまにあのお婆さんとそんな関係になったものかと、恥じもし惘《あき》れもして聞いていた。
「お庄も、野口屋で貰いたいなどという話もあったけれども、あすこへくれるくらいなら、まだやるところもあろうと思ってね。」と、母親はお庄の顔をまじまじ見ながら言い出した。その家は、村で呉服物などを商う家だということを、お庄も思い出した。お庄は自分の帯など買う時に、その店から板に捲いたなりの長い友禅片《ゆうぜんぎれ》などを、そこの亭主が担ぎ込んで来て、納戸《なんど》で母親があれこれと柄を見立てていたことなどを想い出すと、ばかばかしいような気がした。
「あ
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