かけて、やっと流し込んでいるくらいで、そっちへ行ってはばッたり、こっちへ来てはばッたりたおれていた。それに下《しも》の方の病気などがあって、日本橋の婦人科の病院に通いはじめてから、もう二週間の余にもなっていた。神経も過敏になって、ちょっとした新聞の三面記事にもひどく気を悩ました。人殺し、夫婦別れ、亭主の妾狂《めかけぐる》いというようなものを読むと、「厭なことだね。」と言ってつくづく顔を顰《しか》めていた。
三、四日叔父がまたどこかに引っかかっていた。晩に家で酒を飲んでいると、向島の社長の家から電話がかかって来たと言って、酒屋の小僧が取り次いでくれた。お庄がその酒屋へ行って聞き取ってみると、社長の夫人が例の賭場《とば》を開いているのだということが、じきに解った。こんな連中は用心深い屋敷の奥の室《ま》へ立て籠って、おそろしい大きな花を引くということをお庄も叔母から聞いて知っていた。その見張りには巡査が傭《やと》われるということもあながち嘘《うそ》ではないらしかった。
叔父は着物を着換えると俥《くるま》に乗って急いで出かけて行ったが、それきり家へ帰って来なかった。向島へ聞き合わしても、社
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