差し出した。そしてその小僧の様子をしながら、笑い出した。封書のなかには、汚い墨で妙なことが書いてあった。叔父はにっこりともしないで、袋ごと丸めてそこへ棄てた。
お庄は赧《あか》い顔をして、また水口へ降りて行った。胸がしばらくどきどきしていた。
三十四
燥《はしゃ》ぎきった廂《ひさし》にぱちぱちと音がして、二時ごろ雨が降って来た。その音にお庄は目をさまして、急いで高い物干竿《ものほしざお》にかかっていた洗濯物を取り入れた。中にはまだ湿々《じめじめ》しているのもあった。お庄はそれを縁側の方へ取り入れてから、障子に懈《だる》い体を凭《もた》せて、外の方を眺めていた。水沫《しぶき》と一緒に冷たい風が、熱《ほて》った顔や手足に心持よく当って、土の臭いが強く鼻に通った。お庄は遅い昼飯がすむと間もなく、四畳半の方で針を持ちながら居睡りをしていた。
座敷の方では、暑さに弱い叔母が赭《あか》い広東枕《かんとんまくら》をしながら、新聞と団扇《うちわ》とを持ったまま午睡《ひるね》をしていた。叔母は夏に入ってから、手足にいくらか水気をもった気味で、肥った体が一層|懶《だる》かった。飯も茶を
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