だが……。」
「いいえ。そうして頂いちゃかえって……。」お国はもう一度猪口を取りあげて無意識に飲んだ。
 お国は腕車《くるま》で発《た》った。
 新吉はランプの下に大の字になって、しばらく寝ていた。お国がまだいるのやらいないのやら、解らなかった。持って行きどころのない体が曠野《あれの》の真中に横たわっているような気がした。
 大分経ってから、掻巻《かいま》きを被《き》せてくれるお作の顔を、ジロリと見た。
 新吉は引き寄せて、その頬にキッスしようとした。お作の頬は氷のように冷たかった。

      *     *     *

「開業三周年を祝して……」と新吉の店に菰冠《こもかぶ》りが積み上げられた、その秋の末、お作はまた身重《みおも》になった。



底本:「日本の文学9 徳田秋声(一)」中央公論社
   1967(昭和42)年9月5日初版発行
   1971(昭和46)年3月30日第5刷
入力:田古嶋香利
校正:久保あきら
2002年1月30日公開
青空文庫作成ファイル:
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