。
「新さん、じゃ私これでおつもりよ。」とお国は猪口《ちょく》を干して渡した。
お作が黙ってお酌をした。
「お作さんにも、大変お世話になりましたね。」とお国は言い出した。
「いいえ。」とお作はオドついたような調子で言う。
「あちらへ行ったら、ちっとお遊びにいらして下さい……と言いたいんですけれどね、実は私は姿を見られるのもきまりが悪いくらいのところへ行くんですの。これッきり、もうどなたにもお目にかからないつもりですからね。」
お作はその顔を見あげた。
酔漢《よっぱらい》はもう出たと見えて、店が森《しん》としていた。生温《なまぬる》いような風が吹く晩で、じっとしていると、澄みきった耳の底へ、遠くで打っている警鐘の音が聞えるような気がする。かと思うと、それが裏長屋の話し声で消されてしまう。
「ア、酔った!」とお国は燃えている腹の底から出るような息を吐《つ》いて、「じゃ新さん、これで綺麗にお別れにしましょう。酔った勢いでもって……。」と帯の折れていたところを、キュと仕扱《しご》いてポンと敲《たた》いた。
「じゃ、今夜立つかね。」新吉は女の目を瞶《みつ》めて、「私《あっし》送ってもいいん
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