くに食わずに、土間に立詰めだ。指頭《ゆびさき》の千断《ちぎ》れるような寒中、炭を挽《ひ》かされる時なんざ、真実《ほんと》に泣いっちまうぜ。」
 お作は皮膚の弛《ゆる》んだ口元に皺《しわ》を寄せて、ニヤリと笑う。
「これから楽すれやいいじゃありませんか。」
「戯談《じょうだん》じゃねえ。」新吉は吐き出すように言う。「これからが苦労なんだ。今まではただ体を動《いご》かせるばかりで辛抱さえしていれア、それでよかったんだが、自分で一軒の店を張って行くことになって見るてえと、そうは行かねえ。気苦労が大したもんだ。」
「その代り楽しみもあるでしょう。」
「どういう楽しみがあるね。」と新吉は目を丸くした。
「楽しみてえところへは、まだまだ行かねえ。そこまで漕ぎつけるのが大抵のことじゃありゃしねえ。それには内儀さんもしっかりしていてくれなけアならねえ。……それア己はやる。きっとやって見せる。転《ころ》んでもただは起きねえ。けど、お前はどうだ。お前は三度三度無駄飯を食って、毎日毎日モゾクサしてるばかしじゃねえか。だから俺《おれ》は働くにも張合いがねえ。厭になっちまう。」と新吉はウンザリした顔をする。

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