っている――と、お作はこういう心持で、深く気にも留めなかった。怒られる時は、どうなるのかとはらはらして、胸が一杯になって来るが、それもその時きりで、不安の雲はあっても、自分を悲観するほどではなかった。
それでも針の手を休めながら、折々|溜息《ためいき》を吐《つ》くことなぞある。独り長火鉢の横に坐って、する仕事のない静かな昼間なぞは、自然《ひとりで》に涙の零れることもあった。いっそ宅《うち》へ帰って、旧《もと》の屋敷へ奉公した方が気楽だなぞと考えることもあった。その時分から、お作はよく鏡に向った。四下《あたり》に人の影が見えぬと、そっと鏡の被《おお》いを取って、自分の姿を映して見た。髪を直して、顔へ水白粉なぞ塗って、しばらくそこにうっとりしていた。そうして昨日のように思う婚礼当時のことや、それから半年余りの楽しかった夢を繰り返していた。自分の姿や、陽気な華やかなその晩の光景も、ありあり目に浮んで来る。――今ではそうした影も漂うていない。憶い出すと泣き出したいほど情なくなって来る。
店で帳合いをしていた新吉が、不意に「アア。」と溜息を吐いて、これもつまらなさそうな顔をして奥を窺《のぞ》
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