癖ありさうな顏構《つらがまへ》である。
別れて出たては至極《しごく》穩《おだや》かで、白山《はくさん》あたりから通つて來る、或|大工《だいく》と懇意になつて、其大工が始終長火鉢の傍《そば》に頑張つてゐた。朝から酒を飮み、日の暮れぬうちから寢込んで、二人とも夢中になつてゐたもので、少しばかり附いた弟子も、不殘《のこらず》見限つて離れてしまひ、肩を入れた近所の若い者も、直《ばつた》り足を絶つて了つた。がお大は一向平氣で居た。
すると、此《この》夏頃から、松公といふ、色白の若い蕎麥屋《そばや》の出前《でまへ》を口説《くどき》落して、金《かね》(大工の名)の目を忍んで、チヨイ/\宅《うち》へ引張込むやうになつた。松公は無論本氣ではなかつたらしいが、女が容易に放さぬので、可厭々々《いや/\》ながらも自由になつてゐた。其事が何時《いつ》か薄々金《かね》の耳へ入つた。金《かね》の足は、何時かバツタリ絶えてしまふ。
其樣《そん》な心算《つもり》ではなかつたから、お大は繁々《しげ/\》金《かね》へ呼出をかける。第一大切の米櫃《こめびつ》を亡《なく》して了つては、此先生活の道がないので、見かけによら
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