お大を臺所働《だいどころばたらき》やら、子供の守《もり》やら、時偶《ときたま》代稽古などにも使つて、頤《あご》で追※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]してゐたものが、今では妹の方が強くなり、町内の二三の若者が同情して、後楯《うしろだて》になつてくれたのを幸ひ、姉と大喧嘩をして、其まゝ別れ、別に一世帶構へることになつた。其以來二人は前世《ぜんせ》の敵《かたき》か何ぞのやうに仲が惡い。
お山は二|歩《あし》三|歩《あし》進寄つて、『何だよ大きな聲で……芝居に行かうと、何に行かうと餘計なお世話ぢやないか。お前に不義理な借金を爲《し》てありやしまいし。』と言つて奧を窺込《のぞきこ》むと、丁度|凸凹《でこぼこ》なりの姿見の前で、職工風の一人の男の頭にバリカンをかけてゐる、頭髮《け》のモヂヤ/\した貧相な此《こゝ》の親方に、『今日《こんち》は。』と挨拶する。
親方はガリ/\遣《や》りながら、『よく降るぢやござんせんか。今日は本郷座ですね。』
『ハア、今日はお義理でね。眞實《ほんとう》に方々引張られるんで、遣切《やりき》れやしない。今日あたり宅《うち》に寐轉《ねころ》んでる方が、いくら可《
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