い》いか知れやしない。』
『巧《うま》く言つてるよ。』とお大は嫣然《につこり》ともしない。
床屋はちよい/\お山の顏を見ながら『お山さんは、何時《いつ》でも引張凧《ひつぱりだこ》だからね。』
『誰が引張るもんか。』とお大は相變らず喧嘩腰で、焦燥《いら/\》しながら『子供に襤褸《ぼろ》を着せておいちや、年中役者騷ぎをしてゐるんぢやないか。亭主こそ好《い》い面の皮だ。』
『何だね此人は。然《さう》云ふお前は何だえ。』とお山は憎さげにお大の顏を見詰めて、『今日は酒にでも醉つてるんぢやないかい。可厭《いや》に人に突かゝるぢやないか。アヽ解つた、お前此頃|松公《まつこう》に逃《にげ》を打たれたと云ふから、其で其樣《そん》なに自棄糞《やけくそ》になつてるんだね。道理で目の色が變だと思つた。オヽ物騷々々!』
床屋は『ウフヽ』と氣味の惡い笑方をする。
『大きにお世話だよ。』とお大は憤々《ぶり/\》して、『お氣毒《きのどく》さまだが、松公は此方《こつち》が見切をつけて縁を切つたんだよ。如彼《あんな》ひよつとこの一人や二人、欲しけりや何時《いつ》でも貴方《あなた》に上げますよ。』
『チヨツ莫迦《ばか》
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