切り詰められた。均平も学校を卒業するとすぐ、地方庁に官職をもったこともあるので、政治には人並みに興味があり、議会や言論界の動静に、それとなく注意を払ったものだったが、彼自身の生活がそれどころではなかった。それに官界への振出しに、地方庁で政党色の濃厚な上官と、選挙取締りのことなどで衝突して、即日辞表を叩《たた》きつけてからは、官吏がふつふついやになり、一時新聞の政治部に入ってみたこともあったが、それも客気の多い彼には、人事の交渉が煩わしく、じきに罷《や》めてしまい、先輩の勧めと斡旋《あっせん》で、三村の妹の婿《むこ》が取締をしている紙の会社へ勤めた。そこがしっくり箝《は》まっているとも思えないのであったが、田舎《いなか》に残っている老母が、どこでも尻《しり》のおちつかない、物に飽きやすい彼の性質を苦にして漢学者の父の詩文のお弟子であったその先輩に頼んで、それとなし彼を戒めたので、均平も少し恥ずかしくなり、意地にもそこで辛抱しようと決心したのであった。そしてそれが三村家の三女と結婚する因縁ともなり、三村家の別家の養子となる機縁ともなったのであった。
しかし均平にとって、三村家のそうした複
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