二
均平はこの辺の新開地時代そっくりの、待合の建物があまり瀟洒《しょうしゃ》でもなく、雰囲気《ふんいき》も清潔でないので、最初石畳の鋪《し》き詰まった横町などへ入ってみた時には、どこも鼻のつかえるようなせせっこましさで少し小綺麗《こぎれい》な家《うち》はまた、前の植込みや鉢前燈籠《はちまえどうろう》のような附立《ついた》てが、どことなく厭味《いやみ》に出来ているのが鼻についたものだが、たびたび足を入れているうちに、それも目に馴《な》れてしまい、女に目当てがあるだけに、結局その方が気楽であった。しかしだんだん様子がわかってみると、ここは建て初まり当初には、モンブランと言えば大学生の遊び場所になっていただけに、相当名の聞こえた官僚人や政治家、法曹界《ほうそうかい》の名士に大学関係の学者たちの、宴会や隠れ遊びもあって、襖《ふすま》一重を隔てた隣座敷に、どんな偉方《えらがた》がとぐろ捲《ま》いているか知れないのであった。友達同士の遊びや宴会は下町でしても、こっそり遊びにはここもまた肩が凝らなくてよかった。もちろん座敷|摺《ず》れのしないお酌《しゃく》のうちから仕切って面倒を見たり、
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