ていたよりも建築も儼《げん》としており、明るい環境も荒い感じのうちに、厳粛の気を湛《たた》えており、気分のよさに、均平もしばらく立ち止まって四辺《あたり》を見廻していた。
均一は鈴蘭病棟《すずらんびょうとう》の一室にいたが、熱も大して無いと見えて、仰臥《ぎょうが》したまま文庫本を見ていた。木造だけに部屋の感じもよく、今一人の同じ年頃の患者とベッドを並べているので、寂しそうにもなかった。
「お父さま来て下さったの。」
加世子が傍《そば》へ寄って胸を圧《お》されるように言うと、均一は少し狼狽《ろうばい》したように、本を枕頭《まくらもと》におき、入口にいる均平を見た。
「どうだね、こちらへ来て。」
均平は目を潤《うる》ませたが、均一も目に涙をためていた。
「今のところ別に……。」
七
「何しろこの病院は素晴らしいね。ここにいれば大抵の患者は健康になるに決まっているよ。」
「ここまで持って来れる患者でしたら、大抵|肥《ふと》って帰るそうです。」
「とにかくじっと辛抱していることです。一年と思ったら二年もいる気でね。……戦争はどうだった?」
「戦争ですか。何しろ行くと間もな
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