足をぬいて、前借は据置《すえおき》のままに大増《だいます》の女中に住みこむなど、激しい気象のお神にも、拒《ふせ》ぐに手のない破綻《はたん》は仕方がなかった。
 銀子に兜町《かぶとちょう》の若い旦那《だんな》の客がついたのは、土の見えないこの辺にも、咽喉《のど》自慢の苗売りの呼び声が聞こえる時分で、かねがねお神の民子から話があったと見え、贔屓《ひいき》に呼んでくれる藤川《ふじかわ》という出先のお神の見立てで、つけてくれたのであった。やっと二十五になったばかりの、桑名の出であるこの株屋が、亡くなった父の商売を受け継いでから、まだ間もないころで、銀子は三度ばかり呼ばれ、そのころの彼女の好みとしては、ちょぼ髯《ひげ》を生やして眼鏡をかけ、洋服姿のスマートな、あの栗栖の幻影が基本的なものだったので、歯切れのわるい上方弁の、色の生白い商人型のこの男は、どっちかというとしっくりしない感じであり、趣味に合ったとは言えないのだったが、ぽちゃりとした顔や躯《からだ》の皮膚も美しく、子供々々した目鼻立ちも感じが悪くなく、何か若草のような柔らかい心の持主で、いつ険しい顔をして怒るということもなかった。
 藤川
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