うろたえ》気味であった。
「どういう事情か知りませんが、この土地もちっと居辛《いづら》くなったそうで、本人が急に東京へ帰りたいと言ってよこしましたから、お父さん同道で、昨夜の九時の夜行で立って来ましたよ。」
「あら、そうですか。」
 そしてお神は近所へ遊びに行っている銀子を呼びにやり、銀子が上がって来たところで、「ちょっと」と奥へつれて行き、
「あんた住替えですて?」
「何だかいやになったのよ。」
「無理もないと思うけれど。こっちは寝耳に水でね。もしお父さんにお金の入用なことがあるなら、何とか相談してもいいんですよ。それともこれじゃ働きにくいから、こういうふうにして欲しいとか何とかいうのでしたら、聴《き》いてあげてもいいんですがね。せっかく馴染《なじ》んだのに、あんた少し気が早すぎやしない?」
「すみません。別に理由はないんです。でもお父さんも来たもんですから。」
「じゃやっぱりあのことね。何もそんなに気にすることもないと思うがね。」
 桂庵は今度の上りに間に合うようにとしきりに時計を気にしていたが、お神も思い切り、簿記台を開けて、しばらく帳面を調べていた。
 やがて金と引換えに、証書
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