環《ゆびわ》の台は純金であったが、環状《わなり》に並べた九つの小粒の真珠の真ん中に、一つの大きな真珠があり、倉持家の定紋に造られたもので、贈り主の父の母に対する愛情のいかに深かったかを示すものであり、それを偸《ぬす》み出して女に贈る坊っちゃんらしい彼の熱情に、銀子も少し驚きの目を見張っていた。
「そんなことしていいんですの。」
「僕は君を商売人だとは思っていないからそれを贈るんだ。受けてくれるだろう。」
「え、有難いと思うわ。」

      七

 桜の咲く五月ともなると、梅も桃も一時に咲き、嫩葉《わかば》の萌《も》え出る木々の梢《こずえ》や、草の蘇《よみが》える黒土から、咽《むせ》ぶような瘟気《いきれ》を発散し、寒さに怯《おび》えがちの銀子も、何となし脊丈《せたけ》が伸びるような歓《よろこ》びを感ずるのであった。暗澹《あんたん》たる水のうえを、幻のごとく飛んで行く鴎《かもめ》も寂しいものだったが、寝ざめに耳にする川蒸汽や汽車の汽笛の音も、旅の空では何となく物悲しく、倉持を駅まで送って行って、上りの汽車を見るのも好い気持ではなかった。東京育ちの、貧乏に痛めつけられて来たので、田舎《い
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