ついてから読書に耽《ふけ》ったりして、寝坊をすることもあり、時には煩《うる》さがって、わざと髪結いさんの家で、雑誌を読みながら時間を潰《つぶ》したりした。すると内箱の婆やは容赦せず、銀子の顔を見ると、いきなり呶鳴《どな》るのだった。
「新妓《しんこ》さん、お前に便所を取っておいたよ。早く掃除してしまいな。」
 この辺は便所は大抵外にあり、板をわたって行くようになっていたが、氷でつるつるする庭石をわたり、井戸から汲《く》んで来た水を、ひびの切れた手を痺《しび》らせながら雑巾《ぞうきん》を搾《しぼ》り、婆やの気に入るように掃除するのは、千葉で楽をしていた銀子にとってかなり辛い日課であった。しかしそれも馴《な》れて来ると自分で雑巾がけをしない日はかえって気持がわるく、便所の役をわざわざ買って出たりした。
 お神が銀子に義太夫《ぎだゆう》の稽古《けいこ》をさせたのは、ちょうど倉持の話が決まり、この新妓に格がついたころのことだったが、お神も上方から流れて来た、五十年輩の三味線弾《しゃみせんひ》きを一週に何度か日を決めて家へ迎え「揚屋《あげや》」だの「壺坂《つぼさか》」だの「千代萩《せんだいはぎ》
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